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青春の記憶、海外旅行とともに ~あの頃、地球の歩き方を片手に旅に出た日々~

Tags: 海外旅行, 1980年代, 1990年代, バブル, 旅, 地球の歩き方, トラベラーズチェック

青春時代の扉を開けた、遠い異国の景色

1980年代から1990年代初頭にかけて、海外旅行は多くの人にとって、今よりもずっと特別なイベントでした。まだインターネットが普及しておらず、スマートフォンもない時代。遠い異国は、情報が限られている分だけ、より神秘的で、冒険心を掻き立てる場所でした。

この時代の海外旅行は、単なる移動や観光ではなく、綿密な準備と少しの勇気を必要とする、人生の一大イベントの一つだったと言えるかもしれません。学生時代に初めて友人と背伸びして行った卒業旅行、社会人になりたてで奮発した初めての海外、会社の研修旅行など、様々な形で、あの頃の海外の景色やそこで感じた空気は、私たちの記憶の中に鮮やかに残っています。

今回は、そんな1980年代から90年代初頭にかけての海外旅行に焦点を当て、当時の旅の風景を一緒に振り返ってみたいと思います。

旅の始まりは旅行代理店の窓口から

今のように、思い立ったらすぐにスマホで航空券やホテルを予約できる時代ではありませんでした。海外旅行を計画する第一歩は、多くの場合、街角にある旅行代理店を訪れることでした。

店頭のガラスケースには、色とりどりの海外旅行のパンフレットがずらりと並び、それぞれの表紙には、ハワイのビーチ、ヨーロッパの古城、アジアの賑やかな街並みなどが写し出されていました。何冊もパンフレットを持ち帰り、自宅でページをめくりながら行き先を悩む時間も、旅の楽しみの一部でした。

パッケージツアーが主流だったこの時代、パンフレットには旅程、宿泊ホテル、食事、観光地などが詳細に記載されており、初めての海外でも比較的安心して旅立てるよう設計されていました。カウンター越しに担当者と相談しながら旅を決めるプロセスは、デジタルにはない、人と人との温かいやり取りがありました。

地球の歩き方とトラベラーズチェック

個人で自由に旅をする場合、あるいはパックツアーでも自由時間を楽しむ上で、欠かせなかったアイテムが「地球の歩き方」などのガイドブックです。

分厚いガイドブックを抱え、現地の地図と格闘しながら街を歩く姿は、当時の旅人の典型的なスタイルでした。ページにはびっしりと情報が詰め込まれており、交通機関の乗り方、おすすめのレストラン、ショッピング情報、歴史や文化に関する解説まで、まるで現地にいるかのような気分で読み込み、旅の予習をしたものです。時には、ガイドブックに載っていない小さなお店や路地裏を発見する喜びも、旅の醍醐味でした。

お金の持ち運びにも、今とは違いがありました。クレジットカードも今ほど一般的ではなく、多額の現金を持ち歩くのは危険でした。そこで多くの人が利用したのがトラベラーズチェック(T/C)です。購入時にサインをし、利用時にもう一度サインをして本人確認をするこの仕組みは、盗難や紛失のリスクを減らすための当時の工夫でした。銀行やホテルで両替をする必要があり、少し手間はかかりましたが、これもまた当時の海外旅行ならではの経験でした。

異文化との出会いと限られたコミュニケーション

飛行機に乗ること自体も、当時は少し特別な体験でした。機内食のサービス、座席に備え付けられた小さな画面での映画鑑賞など、長時間のフライトを快適に過ごすための工夫がされていました。目的地に到着し、空港に降り立った瞬間に感じる、見慣れない空気や匂い、耳にする外国語は、異国に来たことを強く実感させてくれました。

現地でのコミュニケーションは、今ほどスムーズではありませんでした。翻訳アプリなど存在せず、頼りになるのは片言の英語や、指差し会話帳、あるいは度胸でした。ジェスチャーを交えながら必死に伝えようとした経験は、今となっては懐かしい思い出です。

また、日本への連絡手段も限られていました。ホテルの電話は高額なことが多く、街角の公衆電話から国際電話をかけるのが一般的でした。テレホンカードやコインを手に、時差を計算しながら家族や友人に電話をかけた経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。声を聞くだけで安心し、旅の報告をできる喜びは、現代のSNSや無料通話とはまた違った温かさがありました。

免税店での買い物も、当時の海外旅行の大きな楽しみの一つでした。特にブランド品は、国内で購入するよりも安く手に入るため、多くの方が立ち寄りました。空港で再会した友人同士が、お互いの買ったものを見せ合った光景も、この時代の定番でした。

旅が教えてくれたこと

1980年代から1990年代初頭の海外旅行は、今思えば不便な点もあったかもしれません。しかし、その不便さも含めて、一つ一つのプロセスが旅をより深く、心に残るものにしていました。

計画を立てる段階から始まり、見慣れない通貨や言葉と向き合い、異文化に触れる。それは、単なるレジャーではなく、世界を知り、自分の視野を広げる貴重な経験でした。地球の歩き方をめくりながら夢見た異国の地で、実際に風を感じ、人々と触れ合った経験は、何物にも代えがたい宝物として、私たちの心の中に今も輝いています。

デジタル化が進み、世界がぐっと身近になった現代の旅も素晴らしいものですが、あの頃の、少しハードルが高く、だからこそ特別な輝きを放っていた海外旅行の記憶を、時折こうして振り返ってみるのも良いものですね。